みんなの弁護士 > 事件の現場~私はこう解決した!~ > case02 「お金を集めたのに上場できなかったら詐欺?!」

財産はほどんど貰えず、遺留分の減殺請求もできない…遺産分割で揉めている依頼人を救った、銀行との交渉術とは?

その主張が認められた場合、どうなりますか?

実態のない会社が出資金を集めていたということであれば、相手を騙しているため詐欺にあたります。先ほど出資は取り消し等が制限されていると申し上げましたが、詐欺に関してはその制限から除外されており、契約が取り消しとなる可能性があります。すると会社側は理由なく他人のお金を預かっていることになるため、返還しなくてはなりません。

それならばこちらも税務・会計のプロに意見を伺おうと、提携している会計事務所に財務諸表を分析してもらいました。すると、相手側の言い分が全く根拠のないことだとわかったのです。例えば、相手側は『電子部品の開発・販売会社にも関わらず工場を持っていない』『だから会社としての実体はない』と主張してきました。しかし、研究開発会社と言っても、アップル社のように自社工場を持たない会社はあります。これをファブレスと言いますが、製品の企画や開発、設計は自社で行い、製造は外部に委託するのです。従って、自社工場を持っていないから実態がない会社だとすることは、かなり無理のある主張と言えます。我々は相手側に、主張の矛盾点に関して逐一質問状を送っていきました。

伊藤敬洋弁護士

相手からの返答はありましたか?

いいえ。一切何の回答もありませんでした。
相手の意見は全くの言いがかりだったので、返事の仕様がなかったのでしょう。結果、第二審でも出資金の返還は不要という判決が下され、我々の勝利が確定したのです。

今回は違いますが、最近では高齢者を狙った出資金詐欺も多いと聞きます。

会社を設立すると言って出資金を集めてその後連絡が取れなくなったり、上場間近と偽って未公開株を買わせたり、その手口はどんどん巧妙になっています。一般的にご高齢の方はだまされやすいと想定されますので、出資に関して自己責任とするのは少々酷というものです。そこで、このように自己責任が働きづらい分野においては、消費者契約法で保護されています。

それはどのような法律ですか?

通常、取引において会社側は知識や情報の面で消費者より有利な立場にあります。そのために消費者が正しい判断ができず、不利益を被ることのないように定められている法律です。消費者に対して不当な方法で出資をさせれば、消費者契約法によってその取引を無効にすることができます。

ちなみに、中村さんの会社に出資をした方は著名な経営者でした。当然出資をする際に、ご自身で会社について現状分析をされたはずです。そのうえで出資をしているのですからやはりそれは自己責任。消費者契約法の範囲外です。もちろん中村さんに詐欺行為などはありませんでしたから、今回は一切出資金を返還せずに済みました。ただし、いくら出資金詐欺は消費者契約法で保護されるといっても、出資した会社が経営破綻などしてしまえばそのお金が戻ってくることはほとんどありません。出資とはリスクマネー(ハイリスク・ハイリターンな投資)であることは、必ず肝に銘じておいてください。

この裁判のここがポイント!
  • ■出資金、会社に返還の義務はありません。
  • ■消費者契約法:自己責任が働くかどうかが判断の分かれ道。
  • ■老後の生活資金を狙った出資金詐欺には要注意!

【専門用語】

財務諸表

企業が一定期間の経営成績や財務状態等を明らかにするために、複式簿記に基づき作成される書類。一般的には決算書と呼ばれることが多い。「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の三つの財務諸表を総称して「財務三表」という。

ファブレス(fabless)

fab(Fabrication facility:工場)を所有せずに製造業としての活動を行う企業を指す造語およびビジネスモデル。製品の企画設計や開発は行うが、製品製造のための自社工場は所有せず、製造自体は他社に委託をする。製品はOEMを受ける形で調達し、自社ブランドとして販売する。

消費者契約法

消費者と事業者との間で締結される契約や取引において、「情報の質及び量並びに交渉力の格差」に着目し、消費者に自己責任を求めることが適切でない場合、契約締結過程及び契約に関して、消費者が契約の全部又は一部の効力を否定することができる。消費者契約に関するトラブルの公正かつ円滑な解決を図ることを目的として、平成13年4月1日に施行された。

リスクマネー

株式や企業買収など、高いリスクを伴いながら高収益が見込める投資へ投入される資金のこと。不確実性が大きい反面、成功すると高い運用収益が得られる。

畑中鐡丸弁護士
  • 弁護士:伊藤敬洋
  • 東京弁護士会所属