その主張が認められた場合、どうなりますか?
実態のない会社が出資金を集めていたということであれば、相手を騙しているため詐欺にあたります。先ほど出資は取り消し等が制限されていると申し上げましたが、詐欺に関してはその制限から除外されており、契約が取り消しとなる可能性があります。すると会社側は理由なく他人のお金を預かっていることになるため、返還しなくてはなりません。
それならばこちらも税務・会計のプロに意見を伺おうと、提携している会計事務所に財務諸表を分析してもらいました。すると、相手側の言い分が全く根拠のないことだとわかったのです。例えば、相手側は『電子部品の開発・販売会社にも関わらず工場を持っていない』『だから会社としての実体はない』と主張してきました。しかし、研究開発会社と言っても、アップル社のように自社工場を持たない会社はあります。これをファブレスと言いますが、製品の企画や開発、設計は自社で行い、製造は外部に委託するのです。従って、自社工場を持っていないから実態がない会社だとすることは、かなり無理のある主張と言えます。我々は相手側に、主張の矛盾点に関して逐一質問状を送っていきました。
相手からの返答はありましたか?
いいえ。一切何の回答もありませんでした。
相手の意見は全くの言いがかりだったので、返事の仕様がなかったのでしょう。結果、第二審でも出資金の返還は不要という判決が下され、我々の勝利が確定したのです。
今回は違いますが、最近では高齢者を狙った出資金詐欺も多いと聞きます。
会社を設立すると言って出資金を集めてその後連絡が取れなくなったり、上場間近と偽って未公開株を買わせたり、その手口はどんどん巧妙になっています。一般的にご高齢の方はだまされやすいと想定されますので、出資に関して自己責任とするのは少々酷というものです。そこで、このように自己責任が働きづらい分野においては、消費者契約法で保護されています。
それはどのような法律ですか?
通常、取引において会社側は知識や情報の面で消費者より有利な立場にあります。そのために消費者が正しい判断ができず、不利益を被ることのないように定められている法律です。消費者に対して不当な方法で出資をさせれば、消費者契約法によってその取引を無効にすることができます。
ちなみに、中村さんの会社に出資をした方は著名な経営者でした。当然出資をする際に、ご自身で会社について現状分析をされたはずです。そのうえで出資をしているのですからやはりそれは自己責任。消費者契約法の範囲外です。もちろん中村さんに詐欺行為などはありませんでしたから、今回は一切出資金を返還せずに済みました。ただし、いくら出資金詐欺は消費者契約法で保護されるといっても、出資した会社が経営破綻などしてしまえばそのお金が戻ってくることはほとんどありません。出資とはリスクマネー(ハイリスク・ハイリターンな投資)であることは、必ず肝に銘じておいてください。
- ■出資金、会社に返還の義務はありません。
- ■消費者契約法:自己責任が働くかどうかが判断の分かれ道。
- ■老後の生活資金を狙った出資金詐欺には要注意!