FacebookのIPOが話題になりましたね。
歴史に残る資金調達額になりましたからね。Facebookのおかげであちらの株式市場は盛り上がりを見せていましたが、日本ではIPOを行う会社はめっきり少なくなりました。上場のコストを考えると、あまりメリットを感じない経営者が多いようです。また、上場したいと思っていても昨今の厳しい経済状況でうまくいかず、結局果たせなかったという方もいます。今回は、ある会社に降りかかった問題をご紹介しましょう。
事務所にお見えになったのは、電子部品の開発会社を経営している中村社長。大手企業から独立し、順調に売り上げを伸ばしていきました。
一時は上場を目指すという話で、社内が盛り上がるまでに会社は成長していたのですが、他社が似たような商品を販売してからというもの売上が激減。新たな製品も思うように生まれず、開発費だけが膨れ上がっていったのです。そんな会社に見切りをつけ、社員も一人、また一人と去っていき、今では数人で細々と続けているという状況です。
もう上場どころではありませんね。
ところが、中村さんは経営が好調だった時に『うちにはどこにも負けない技術があります』『将来必ず上場します』と言って出資を募っていました。結果は上場どころか経営を続けるのもやっとという状況・・・。
そんな会社に対して『上場する気なんて最初からなかったんじゃないのか?』『我々を騙してお金を取ったんだから、この出資は無効だ』と出資者の一人が訴えてきました。そして出資金4,000万円の返還を請求してきたのです。
それは困ったことになりました。
確かに出資者からしてみれば、『騙された』と言いたくなるかもしれません。
しかし、出資とはある程度のリスクを覚悟したうえで、会社の成長に期待をしてお金を出すという行為です。株主は出資以上のリスクは負わず、会社が成長した時に出資分に応じて配当を受け取る。これが株式会社の原理です。この出資に関して通常の取引のように取り消しができてしまうと、会社は存続の基盤である資本金を失ってしまいます。そのため、出資金に関しては会社法第211条によって取り消し等が制限されているのです。
お金を貸していたということであれば当然返してもらう権利がありますが、出資金には返還義務はありません。
つまり、中村さんも4,000万円を返さなくて良いということですか?
はい。一審では当然ながら勝訴しました。
すると、向こうは第二審で急に『この会社はもともと実態のない会社だった』と主張。公認会計士が作成したという意見書を提出してきたのです。