相続は、遺産分割で揉めている間は
財産を受け取ることができないと聞きました。
人が亡くなるとその財産は一度相続人全員の共有となり、分割協議をすることによって帰属先が決まります。つまり、遺産分割が終わるまでは財産は『相続人全員のもの』であるため受け取ることができないのです。
ところが、財産には遺産分割の対象にならない『可分債権』というものがあります。
『可分債権』とは何ですか?
『可分債権』とはその価値を損なわずに分割することができる財産で、
代表的なものが預貯金です。『可分債権』は相続開始と同時に自動的に法定相続分で分割されると考えます。これを『当然分割説』と言います。
よって預貯金は、判例上は遺産分割を待たずに自分の取り分を相続することができるんです(最高裁判決 昭和29年4月8日)。
ただし、実際は預貯金も含めて遺産分割を行うことがほとんどです。
「遺産分割を待たずに・・・」とはどういうことでしょう?
実際にあったケースでご説明しましょう。ある資産家の加藤さんが亡くなり、相続が発生。ご相談にいらしたのは長女の由美子さんです。相続人は母親、長男、由美子さんの3名で、財産は預金が4億円と不動産や株など。由美子さんは結婚して家を出ていましたが、長男は実家の隣に住んでいて父親の看病もしていました。また、父親の通帳などは、以前から長男が管理をしていたので、由美子さんも長男が家を継ぐことには納得していました。
それでも争いは起きた、と。
はい。父親の四十九日を終えた頃、長男が作った遺産分割協議書が送られてきました。しかし、その内容は財産のほぼ全てを長男が相続するというもの。
由美子さんには『死に水を取ったのは兄だから』という遠慮もあったのですが、あまりにも理不尽な内容にやはり納得ができません。ところが長男は、嫌なら裁判でも何でもすれば良いと言うのです。
裁判となれば時間がかかりそうですね。
実は由美子さんは、2人の子供がそれぞれ高校と大学に進学する時期で、すぐにでも財産が欲しいという本音がありました。
また、今回遺言書もありませんでした。もし仮に遺言書で長男:由美子さんの相続割合が9:1とされていれば、由美子さんは『遺留分の減殺請求』ができます。
遺留分とは、遺言によっても侵害することのできない、法定相続人に最低限保証されている相続分のことです。
ちなみに今回の場合では、由美子さんの遺留分は財産全体の8分の1となりますが、それでも長男が作成した遺産分割協議書よりは多く貰えることになります。